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8:夫婦デート

「海よりも大きな幸せさ!」
大きな手振りと自信タップリと言わんばかりの笑顔でアストナージは言い放った。
相変わらずだなぁ……なんて思いつつ、今ここにある幸せを噛み締めた。
思えば、アストナージはいつも明るい。笑顔なんて歯が光ってるんじゃないかっていう程爽やかだ。
毎日身体を鍛えることは怠らず、かと言って仕事もそこそここなしている。ひいき目なしに顔だって…悪くないって思う。

『相手を知るにはまずつき合ってみる』
それがナルル国民の考え方で、恋人を複数作るのが当たり前なのに、私以外の人を作る素振りも見せない。
モテないわけじゃないと思うんだけど……
そんな疑問からまだ恋人だった頃、アストナージの後を付けてみたことがある。
あちこちの訓練場を渡り歩き、道すがら出会う人には挨拶しつつ、仕事したり、また訓練したり。
特に人を嫌う訳じゃなく、普通に過ごしてた。
そんな時ふと、頬を赤らめた女の子がアストナージに駆け寄りプレゼントをしてる光景を目にした。
とうとうアストナージも……?
そんな思いが身体に駆け巡って胸が締め付けられる。
だけどその直後、
「これ良かったら…」
アストナージは貰ったプレゼントを近くにいたおじいちゃんにあげてしまった。
…………これじゃあ、モテないわけだ……
妙に納得してしまった。
プレゼントを渡した女の子は既にその場を離れていて、光景を見てなかったことが幸いだったかもしれない。
……でも、私がプレゼントした花や鏡はいつもすぐに家の倉庫にしまってるんだよね。
夫婦になった今も時々綺麗な花が採れるとプレゼントするんだけど、すぐ個人の棚にしまいこんでしまうし。
やっぱり、私だけ『特別』だからなのかな……?
思わず口元が緩んでしまう。
「何、一人でニヤニヤしてるんだい?」
「に、ニヤニヤなんて……してたけど」
「あはは!正直だな!アキちゃんは!」
顔がかーーっと熱くなる。
恥ずかしさから逃れたくて質問を投げかけてみる。
「ねぇ、私と知り合う前に誰かとつき合ったことあるの?」
「な、なんだよ急に……」
「ちょっと気になって。ねぇ、どうなの?」
「……………」
アストナージは私から視線を外し、バツが悪そうに長めの前髪をかきあげ、一つため息をついた。
「………ないよ」
「ないんだ!」
「……悪かったね。モテなくて。」
「あっ別にそういうわけじゃなくて……」
考えてたことを読まれたようで焦ってしまう。
「僕は子供の頃から騎士に憧れててさ、ずっと訓練に明け暮れてたんだ。それで憧れの騎士になれたら、今度は上をって……それでもたまに可愛い子がいればつき合ってみようかなって思ったこともあったよ。でも、相手にされなかった。要はモテなかったってことだよ。」
開き直ったように、過去の自分を語り始めた。
「それで、女の子のことは諦めて武術に生きようと考えた」
「あれ?じゃあなんで私に声かけてくれたの?」
アストナージはゆっくりと海に向けていた視線を私の方に向けた。
「凄く必死な子がいるなぁ~って思ったんだよ」
「えっ?」
「僕達家が近所だったろ?だから朝も夜も必死に出会う人皆に話かけたり、花渡したりしてた光景をよく見かけたんだよ。」
「だって、移住してきたばかりで一人だったし、友達も欲しかったし……」
「別に悪いことだと思ってないよ。そんな姿見てたら、簡単に諦めてた自分が恥ずかしくなったんだ。僕ももう少し頑張ってみようかなって」
「そうだったんだ……」
あの頃は本当に必死だった。そんな姿を見られてたのかと思うと恥ずかしくてたまらないけど…
「まあ、アキちゃんに声かけてもやっぱり相手にされてなかったけどね」
「そっ……それは!!!!!!!」
他に本命がいたから、なんて口が裂けても言えない!!!!!
でも、アストナージのことはずっと「近所でよく声かけてくれるお兄さん」くらいしか印象なかったのよね……異性として見てなかったというか。
それでも、今はこうしている。
昨日まで「ご近所さん」だった人が「恋人」になって、「夫」になった。
「人との出会いって不思議ね……」
「そうだね。気がついたら夫婦になってた」
「もうちょっと意識して欲しいわ」
「あははは」
それからしばらく、温かい日差しを浴びながらぼんやり海を眺めていた。
「……そろそろ帰ろうか」
「うん♪」
帰ろう。
私達の家へ。

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